また、受託者を家族に設定できる家族信託に対して、成年後見制度は家族を後見人につけることは約束されません。仮に家族が後見人になれたとしても第三者が監督人につく場合もあります。
財産に関しては、成年後見制度だと被後見人の預金はすべて後見人が管理することになります。しかし、家族信託なら自由に契約の設定ができるので財産の一部を受託者に管理してもらい、それ以外の財産を委託者自身で管理することができます。
☆成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人の代理で成年後見人が財産を管理したり契約を交わしたりして本人を保護する制度です。
成年後見制度には法定後見と任意後見の二つの種類があります。
▼法定後見⇒判断能力が衰えた後に、家族が申し立てをして家庭裁判所が後見人を決めます。ただし、最近は法定後見人に家族が選ばれることは少なく、司法書士や弁護士が選任されることが増えました。そうなると毎月2万~6万円程の報酬が発生します。
▼任意後見⇒判断能力が衰える前に、本人が任意後見人やどんなことを代理してもらうか(不動産の管理処分や介護福祉施設の利用契約の締結など)をあらかじめ決めておきます。その契約は公証役場で締結します。本人の判断能力が低下したとき本人や家族、任意後見受任者が家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選任されそこから任意後見契約の効力が生じます。任意後見監督人が必ずつき、司法書士や弁護士が選ばれるため毎月1万~3万円程の報酬が発生します。
※受託者と任意後見人は子だけでなく自由に設定ができます。法定後見人に家族が選ばれることもあります。
〈家族信託と成年後見制度の比較表〉
◎家族信託(受託者) | ◎法定後見制度(法定後見人) | ◎任意後見制度(任意後見人) | |
目的 | 財産管理・運用・処分 | 本人の支援・保護 財産の維持・保存 |
法定後見制度と同じ |
費用 | 初期費用は50万~100万円程度。 毎月かかる固定費や維持費はない。 |
専門職に頼むと初期費用は10万円程度。 後見人に司法書士や弁護士がついた場合、毎月2万~6万円の報酬がかかる(家庭裁判所が決定)。 |
専門職に頼むと初期費用は15万円程度。 家族など自由に設定ができるので後見人への報酬はかからないが、任意後見監督人として司法書士や弁護士が必ずつくため毎月1万~3万円の報酬がかかる(家庭裁判所が決定)。 |
管理者 | 本人や家族が受託者を契約で決める。 | 家庭裁判所が法定後見人を決める。 | 判断能力があるうちに本人が任意後見人を契約で決める。 |
監督人 | 基本は不要。任意なのでつけたいならつけられる(ただし、監督人に司法書士や弁護士がつくと報酬が発生)。 | 家庭裁判所が必要だと判断した場合、後見監督人がつく。 | 家庭裁判所から選任された監督人が必ずつく。 |
期間 | いつからでも始められるが、本人が元気なうちに家族で契約。契約の設定によっては本人が死亡した後も継続は可能。 | 本人が認知症など判断能力がなくなってから家庭裁判所に申し立てをして開始。本人が死亡、又は判断能力が回復するまで。 | 本人が元気なうちに決めておき公証役場で締結、判断能力が低下したときに家庭裁判所に申し立てをして開始。本人が死亡、又は判断能力が回復するまで。 |
権限 | 財産管理 | 財産管理・法律行為の代理(取消権・同意権)・身上監護 | 財産管理・契約で定めた法律行為の代理(取消権・同意権はなし)・身上監護 |
財産管理・処分・運用 | 信託契約内であれば処分・運用は可能。 | 財産を維持しながら本人のために支出。投資など資産運用や財産が減ってしまう行為は禁止。 | 契約内であれば処分・運用は可能。 |
自宅の売却 | 信託契約内であれば売却可能。 | 家庭裁判所の許可が必要。「生活費を捻出するため」など合理的な理由がいる。 | 代理権が与えられているため、家庭裁判所や任意後見監督人の許可、同意は不要。ただし、合理的な理由がいる。 |
犯罪被害への対処 (オレオレ詐欺や悪質な訪問販売など) |
取消権はない。しかし、信託財産は受託者が管理しているため信託財産は守られ被害を最小限におさえられる。 | 本人が交わした契約を法定後見人が取り消すことができる。 | 取消権はないので、本人が交わした契約を取り消すことはできない。 |
本人が死亡した場合 | 本人死亡で信託を終了させることもできるが、受託者が信託財産を継続的に管理できる契約を結ぶことも可能。 | 本人が死亡した時点で後見業務は終了。相続の手続きなど死後の業務は範囲外。 | 法定後見制度と同じ。 |
◎家族信託 | ◎成年後見制度 | |
自宅の売却 | 〇 (契約内であれば受託者の判断で 自由に処理や運用などができる) |
△ (家庭裁判所の許可がおりれば〇) |
賃貸物件のリフォーム | △ (投資にならないと判断されれば〇) |
|
不動産の売買 | △ (家庭裁判所に事前に確認が必要) |
|
資産運用や相続税対策 | × | |
口座の凍結 | × (凍結はされない) |
× (凍結はされない) |
家庭裁判所への報告 | × (家庭裁判所は関係がないため報告は不要) |
〇 (後見人は家庭裁判所の監督下におかれているため報告が必要) |
①預金がたくさんある場合、それを本人の生活費に充てることができると判断され自宅売却の許可がおりない可能性があります。親が施設に入り誰も住んでいない自宅の売却ができず更に維持費がかかってしまうケースも。
②財産の維持が目的なので、投資をして貯蓄を増やしたり財産の減少にもつながる恐れがある資産運用は禁止とされています。また、相続税対策は相続人が将来支払うことになる相続税の節税が目的で本人のためとみなされずできません。
③財産はすべて後見人が管理することになります。
④後見人は家庭裁判所の監視下に置かれているため、原則として年に一回報告をする義務があります。
◎家族信託だと
①契約内容に自宅の管理を受託者に任せる設定をすれば売却が可能です。
②家族信託を組むだけでは節税にはなりません。
しかし、アパートを建てたり不動産の購入などで結果的に節税になることもあり、資産運用をしながら相続税対策をすることも可能です。
③契約で財産の一部のみを信託する設定をしておけば、信託されていない財産は委託者が自由に使うことができます。
④家庭裁判所は関係がないので報告は必要ありません。ただし、委託者に対する報告義務はあります。なので、求められた場合は信託財産の状況や内容を報告しなければいけません。
また、第三者が後見人につくことが多く、家庭裁判所の監視下に置かれており報告義務などもあるため、後見人による使い込みの可能性も低いと言えます。
更に、法定後見制度には家族信託や任意後見制度にはない取消権があります。
一方、家族信託は遺言書と同じ機能を持たせることが可能です。
委託者が死亡した時に残っている信託財産を誰に渡すか、どのように管理するかなどを契約で指定しておくと遺言書としての役割を担うことができます。
ご家族によって状況や抱えている悩みなどが異なるので、
二つの制度の比較をしながらご家族の形に合った方を選択していただけたらと思います。
・財産の管理や処理、運用などの自由度が高いのは家族信託。
・初期費用は家族信託の方が高いが、成年後見制度は毎月報酬がかかる。
・家族信託と任意後見制度は受託者と後見人を自由に設定できるが、法定後見制度は家庭裁判所が決める。
・任意後見人は自由に設定できるが、司法書士や弁護士が任意後見監督人として必ずつく。
・法定後見制度には取消権があるが、家族信託と任意後見制度にはない。
・財産すべての管理をする成年後見制度に対し、家族信託は財産の金額を自由に設定できる。
・成年後見制度は家庭裁判所への報告義務がある。
・口座の凍結は家族信託も成年後見制度もされない。